4月3日の台湾東方沖地震発生後、たった3時間でシャワー、トイレ付きの避難所が設置されたというニュースに注目が集まりました。
しかも、避難所の小学校体育館内にはプライバシーを保てる避難用テントがずらりと並んでおり、清潔も保たれていました。
その光景に「最近の能登半島沖地震被災地の避難所とはあまりにもかけ離れているのでは?」と疑問に思ったり、衝撃を覚えた人も少なくないはずです。
そこで、「台湾と日本は避難所の設置のスピードや質に違いはあるのか?、もしかして、日本は台湾よりも避難所設置対応が劣っているのか?」と気になり、調べてみました
台湾と日本の避難所設置スピードと質を比べてみる
台湾の避難所設置スピードと質
台湾:とにかく避難所は速攻開設、
生活環境も同時に整備
台湾では、地震が起きたら、政府が即座に動きます。
2024年4月3日の花蓮市の地震では、地震からわずか3時間で避難所が設置されました。ほかの避難所もほぼ同じような迅速さで開設されたというから、ばらつきのない対応力に驚かされます。
これは、地元の人たちによる助け合いも功を奏しているようです。このおかげで、被災者は安心して一夜を過ごせたとのことです。
日頃の助け合い精神が、当たり前に根付いているというのは心強いですね。提供された食事も栄養バランスのとれた素晴らしいものでした。行政だけではなかなかそこまで手が回らなかったでしょう。
設備面では、一か所の避難所だけで、冷暖房完備の体育館内個室スペース36室、屋外用テント20室、温水シャワー10個、トイレ16個が設置されたというのですから、見事と言うしかありません。
では、どうしてこのように迅速な避難所開設が可能だったのでしょうか?
以下の理由が挙げられています。
迅速な設置で避難環境も最適化できる理由
1.地方自治体、政府機関やNGOとの連携が強化されているから
今回の地震はマグニチュード7.2と台湾で起きた過去25年間の地震の中でも最大規模のものでしたが、1999年と2016年、2018年と地震被害に見舞われるたび、各機関の連携を強めて迅速に動けるようなっていました。
2.いつでも中国からの武力攻撃に備えて準備しているから
台湾は、領有権を主張して軍事的・政治的圧力をかけてくる中国に危機感を高めています。
そのため自治体も24時間体制で救助隊を待機させており、備蓄や避難場所も用意できています。攻撃時にも災害時にも瞬時に行動できるようになっているのです。
地震の起きた花蓮県で、自治体当局、軍部隊、警察が一丸となって倒壊寸前のビルを即座に撤去できたのもこういった理由からです。
日本の避難所設置スピードと質
日本:避難所開設だけなら迅速設置は可能、
生活環境整備は時間がかかる
日本では、地震が起きたら、まず市町村など地域自治体が動きます
日本でも、災害発生後1時間~3時間で避難所が設置されることも普通にあります。緊急を要する場合は数時間~1日以内に設置されることも一般的です。
ただ、これはあくまでも自治体の避難所開設までの事前準備が、どれだけ整っているかによります。
災害規模や被害状況によっても、避難所開設にかかる時間は違ってくるのです。
今回の能登半島沖地震では、緊急性を要したため、地区の小中学校や公民館など事前に指定された避難所が地震発生後数時間ほどで開設されています。
石川県七尾市の和倉小学校は発生から2時間で避難所を開設し、約1400人が身を寄せました。
しかし、いくら迅速とはいえ、停電が起こり、水道も利用できない避難所では、食事の準備はおろか、水洗トイレも使用できません。
地震直後、救援が来ない状態では、地域の自治体、住民が先ずできることをするしかないのです。
プライバシーを保つテントや衛生的なトイレ、シャワーの設置、温かく質の高い食事提供は、被災地の自治体だけでは難しく、外部の救援を待つしかありません。
避難所開設と生活環境の整備には時間がかかる理由
1.避難所開設には一定の準備時間が必要
避難所開設前には、開錠、安全点検、ライフライン・備蓄・運営ルールの確認、受け入れ・受付準備、居住スペース・通路等の避難所のレイアウトなどたくさんの準備段階があります。この準備にかける時間は30分が基準とされています。
しかし、よっぽど避難所に精通した人でないと、この30分で準備を終えて、迅速に開設するのは難しいでしょう。避難者が指定避難所に行ったところで、すぐに中には入れません。この準備が整うまでは公園や校庭などの一時避難場所で待機することもあります。
ただ、地域には避難所担当者が設置されているそうなので、担当者がすぐに動ける状態であれば緊急を要するときはマニュアルに沿って手際よく準備できそうですね。
2.避難所運営は自治体に任されているため、外部からの
日本政府の内閣府は【避難所の開設等は、市町村が行う自治事務であり、避難所における生活環境の整備は努力義務ではあるが、内閣府としても、市町村には、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」等を通じて助言。】と定めています。
あくまでも避難所開設、運営は市町村自治体の責任だよと言っていますね。これでは自らも痛手を受けた被災地の自治体は、避難所開設直後は限られた備蓄や設備で賄うしかありません。市町村の長は知事に災害救援要請し、さらに知事が政府に要請して、災害救援が始まるシステムです。適切な生活環境整備に時間がかかるのももっともですね。
今回の地震の被災地である珠洲市の避難所では、地震発生から3日目の時点でも食料などの支援物資が不足していたようです。しかし、被災者の方々は互いに協力し合い、自宅から持ち寄った野菜や米を使って豚汁などの炊き出しを行い、困難な状況を乗り越えていたことが伝えられています。このような状況は、大規模な災害発生時には支援がすぐに届かないという現実を物語っています。
実は日本の避難所にも個室テントは設置されていた
今回の台湾の迅速な避難所設置とその生活環境の見事な整備に、日本の避難所対応の酷さを嘆いたり、怒ったりする声も大きかったですが、日本でも個室用テントの避難所設置はされていました。
もちろん全部がそうではありませんが、コロナ禍を機に日本の避難所のあり方が改善されてきているのも事実です。
2020年9月6日、非常に強い勢力の台風10号が九州に接近した。その夜、長崎県五島市の市勤労福祉センターでは3密対策で避難者を約270人に限定したが、約350人が押し寄せた。市は急きょ避難所のエントランス付近にテント約30張りを設置。ペットと一緒に避難した家族連れらが利用した。市の担当者は「テントを備蓄していたことから、訪れた避難者のほぼ全員に安全な場所で過ごしてもらえた」と振り返る。
災害時はテントを活用! コロナ禍で大注目|特集記事|くらし×防災メディア「防災ニッポン」読売新聞 (yomiuri.co.jp)
コロナ禍を機に自治体による避難所用テントの備えは進んでおり、2020年には大阪府池田市は300張り、奈良県十津川氏は500張り、広島市は850張り、それぞれに購入して備蓄をしたと伝えられています。
他にも、2021年2月に発生した福島県沖の地震後、数時間で相馬市の体育館にテントが設置され、避難者たちはそこで寒さから身を守りました。避難所へのテントの配備は、日本全体で急速に進んでいるとも報告されています。
同年の岡山県の大雨災害で設置された避難所にもテントが張られました。
コロナ禍前でも災害用テントを設置した避難所はありました。
2016年の熊本地震では、屋内避難に不安もあったため、屋外避難所としての大規模なテント村NGOの協力で実現しました。
(登山家の野口健が代表を務める環境&国際協力NPO法人ピーク・エイド掲載画像から)
このように、避難所にテントを設置した自治体は以前に比べると増えています。ただ、迅速に設置するには普段から備蓄をして、すぐ張れるように準備しておくことが大前提です。
まだまだ、日本全体での普及は不十分というのが現状です。
日本の避難所設置レベルは台湾と比べて劣っているのか?
これには賛否両論、いろいろあるようです。
「台湾の他の避難所には、雑魚寝状態の劣悪避難所もあったのではないか?」とか、「このスピードと避難所のクォリティーは台湾に完敗」とか様々な意見があります。
台湾と日本を比べて勝ち負け判定するのは意味がありません。
お互いの良さや課題を学んで協力してこそ、今後の災害対策に活かせるというものです。
そういう意味で、世界各地に災害被災地に出向き、支援活動を展開してきたNPO法人ピーク・エイド代表の野口健氏の意見は参考になります。
以下に、その一部を紹介します。
”テント村には様々な専門家の方々が視察にきましたが、よく耳にしたのは「日本の避難所は他の先進国と比較すると三流」といった厳しい意見の数々。 スフィア基準(人道憲章と人道対応に関する最低基準)には避難所としての最低基準が明記されていますが・・・” ー2016年ピーク・エイド報告「日本の避難所を考える」からー
“〝避難所ガチャ(当たりハズレがあるという意)〟という言葉を耳にしたが、避難所によって格差が生じてはならない。避難所に何を用意するのか、全国統一のルールを策定すべきだ。また各自治体で寝袋を用意し、備えておくこと。長期間、寒さにさらされる被災者の姿を見るのは今回で最後にすべきである。” (同氏の2024年2月22日産経新聞の連載「直球&曲球」に掲載された「正すべきは国の災害支援のあり方」の記事から)
耳が痛いですね。
私も今回の能登半島沖地震の避難所対応は、台湾だけでなく他国の避難所レベルに比べても劣っていると感じました。
まとめ
台湾と日本の避難所設置のスピードと質の違いを比べてわかったことは、
・台湾は迅速な避難所開設が一律にできる。民間との連携により避難所の生活環境の質も保たれて いる。
(理由)政府が動き、官民連携の防災体制が確立できているため、迅速で安心安全な避難所設置に対応できる。
・日本も迅速設置はできる。しかし、市町村の自治体次第でスピードにはばらつきがある。避難所の生活環境については整備に時間がかかる。
(理由)日本の避難所設置は、市町村自治体に任せられており、迅速設置できたにしても、安心安全な避難所の提供には、政府や民間の外部支援を待つ必要がある。
ということです。
地震大国である日本は、今回の台湾の避難所設置のあり方に深く学ぶべきだと思います。
自治体任せの避難所設置から政府主導の迅速で取りこぼしのない避難所設置への転換が、今こそ求められてるのではないでしょうか。
自治体も、テントの備蓄など近年努力を重ねていますが、十分とは言えないでしょう。
日本政府も災害が起こってからお金を渡すのではなく、事前に防災予算として自治体にお金を出して対策強化を促すなど、できることはあるはずです。
台湾は過去の地震被害から学び、防災対策の改善強化に努力してきたと伝えられています。
政府に「国民を大事にしなければならない」という気持ちがなくてはできないことですよね。
日本政府にもそうあってほしいと思います。
能登半島地震避難所の鵜川小学校の様子 台湾地震発災僅か翌日の避難所→ 同じ2024年とは思えませんね。 : 葉梨愛ツイッター的ブログ / https://t.co/qVTh9n7wnw pic.twitter.com/bJG9XIO8Xg
— 二太郎 (@2tarou) April 12, 2024
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